最後の一閃。
どうしようもなく誰かの仇だった彼が、初めて乙のが仇を露にした、その瞬間。
一瞬の剣花の狭間で、垣間見みえた彼女の表情までは窺い知れない。
そもそも、自分は何もしらないのだ。
彼女の顔も、それを見つめた彼の眼差しも。
しばしば、ごくたまに彼の想い出の片鱗に触れることはあっても、彼を知るばかりか、過去にとって自分は完全に部外者なのだと思い知らされる。
彼がそれを棘だらけのハコにしまって、痛みすらいとおしんで抱えていることを知りながら、共有できないそれを憎んで、妬んで、焦がれて。
ぱきり、とん。
石壁のような体躯がひび割れれる音と、剣心が再び地に降りるそれは、ほぼ同時だった。
彼の仇は消えずに中途半端に崩れて、その身を守り、自分を閉じ込めていた甲冑が剥がれ落ちる。
「…か、薫殿……」
目を見張って、可哀想なくらい目を見張ってぽかんと口をあけた、剣心がいとおしかった。その程に、先刻やっと解れた痛みが、ヒドク甘い痺れとなって、身体の奥が焼き切れたみたいになる。
…焦がれたあの痛みは、終ぞ共有できないものだと一瞬のうちに思い知ったからかもしれない。
は、と駆け寄ってきた剣心へ手を伸ばす。
「こんなところに…!!怪我…怪我はないでござるか…!?」
「大丈夫よ。なんてことないわ」
たぶんこれは、甲冑が砕けた破片で切れたものだ。彼の古傷に触れる時のように、首の一筋に手をやった。
薄皮一枚、だ。
それは執念だ。
それは懺悔だ。
それでも。
彼は彼のまま、自分をもういちどその目に映し、そこに立っている。
知らず頬を伝ったものの本当の理由は、自分でも分からなかった。拐われてはりつめていた気がゆるんだかも、隣に投げ出しされた頑強な体躯が、嵐の去った荒れ野のようで切なく感じたかも。
ただおろおろする彼が、あまりにもいつもの彼過ぎて、微笑った。
空は晴れている。
季節は暮れゆく。
思い出を内包したまま。
それでもずっと、今抱えている想いだけは忘れないようにしようと誓った。
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